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もう一つはストレートに告知してしまうと非常にショックだろうから、小出しにしたり、言い方をいろいろ変えたりすると思うのです。そういった情報は非常に大切で、毎朝カンファレンスをやってそこで情報を伝え合っているから伝わりますし、患者がどう反応したかというのもわかるのですが、いま調剤薬局というのがどんどんできていて、訪問服薬指導料が月に2回請求できるのです。
おそらくこれからどんどんそういった形で増えてくると思うのです。そういったときに微妙な情報をどうやってやりとりしていったらいいのか、それからもしくはチームとして、たとえば院内だけであればいいのですけれど、在宅の場合にはそこにホームヘルパーが加わってきたりとか、ボランティアが加わってきたりというように、医療者以外の福祉サービスの方が加わってきたときに、その方たちにどの程度までの情報を与えるべきなのか、どうやってカンファレンスをしていったらいいのかというのは、告知がうまくいっていない日本の現状では非常に問題になってくると思うのですけれど、そのへんどうやったら解決できるのか。
武田 その問題を短期的に解決していくということはむずかしいと思うのです。方向性が出てくれば2,3年のうちにかなり改善してくるとは思うのですが、私は医療情報が患者さんのプライバシーに関わることなのだという認識が少なすぎると思うのです。ですから患者さんには隠しておいて医療者同士はどうやって連絡し合って秘密を共有しようかということにも思えるものですから、これはインフォームド・コンセントが大きく掲げられている時代としては相反することというようにも思えるのです。個々の例に対応していくと少しずつ事態が変わってきて、いまお悩みのようなことはなくなるのではないかと思います。調剤薬局が情報がなくて困るというのだったら、患者さんにあなたは自分の病気をどういうふうに理解しているのでしょうかと聞けばいちばんいいのではないかと私は思います。
日野原 私は最近ますます一般の人を教育しないと日本は変わらないと思っています。21世紀にもうすぐなりますけれども医学教育は全然変わっていないのです。患者さんに本当のことを知らせる、そして病歴は患者さんがいつも持っていて受診する医師に見せればいいのです。そういうように自分が自分の病気のことを知らなくてはならないという意識革命をすることに医療従事者がもっと熱心にならなくてはならないと思います。だからこれからは日本の病名告知の問題はかなり急速に進んでいくと思いますし、武田先生のところはほとんどそれをやっているという状態ですし、がんセンターも右へならえとやっている状態ですからね。
誰が告知をすればいいかというと、その人にとうていちばんいい人がいるはずだ、それは主治医であったりします。しかしそうでないこともあるのです。ではナースがやっていいかとなると、医者の間で大変でしょう。ですからそこのところはもっとナースとドクターが病棟においてディスカッションをする。ナースが情報をドクターに提供して、もうこの患者さんは受容する気持ちが目に見えていますといったような情報を提供して、それがうまくいきますと、ナースも言いやすくなる。私は、最も愛する人が、最もよく知っている人が話すのが自然でしょうし、それがいちばんソフトなのではないかと思います。
死後の取り扱い
Wendy 死後のボディーをどう処置するかということですが、イギリスでは伝統的に綿を詰めて、手を合わせて縛って、ときには足も縛るといったことをしていました。そういう伝統が何世紀にわたって積み重ねられてきたものです。それをする理由はいろいろあると思いますが、魂が逃げないように体の中に留め置くという意味でそういう処置をしたのが最初のスタートだと思います。手と足を拘束するというのは大の字になってしまうのを避けるためという実際的な面というのもなくはなかったと思います。
しかしこの15年、20年を見てみますと、イギリスでは綿を詰めるのはもう止めてしまいました。その代わりに死後1時間は身体をそのまま放置するということをやっています、その理由は、一つは亡くなった方に対する尊敬という意味もありますし、死後硬直が起こりますから1時間置くのです。

 

 

 

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